歯の根元や歯ぐきとの境界線が黒いことに気づいたとき、鏡を何度見ても「虫歯に違いない」と確信してしまうことがありますが、実際にはそれは「黒色歯石」と呼ばれる非常に硬い汚れである場合がほとんどです。一般的な歯石は、唾液に含まれる成分とプラークが結びついてできるもので、色は黄色っぽく、自分でもブラッシングの際に気づきやすいものです。しかし、歯周ポケットという歯ぐきの深い溝の中にできる黒色歯石は、歯周病菌の影響で歯ぐきから出血した血液成分がヘモグロビンを含んで歯石に取り込まれるため、石炭のように真っ黒な色になります。この歯石は通常の歯石よりも遥かに硬く、歯の根っこに強力にこびりついているため、1日に何回歯磨きをしても、あるいは10分間以上ブラッシングを続けても、自宅で落とすことは100%不可能です。この黒い歯石を放置しておくと、歯周病菌の温床となり、周囲の骨を溶かす毒素を出し続けるため、見た目以上に深刻な健康被害をもたらします。歯ぐきが下がってきて、これまで隠れていた黒い歯石が露出したとき、患者様は歯が黒いのは虫歯じゃないかと驚かれますが、これは重度の歯周病が進行しているという体からのSOS信号なのです。歯科医院での治療では、超音波スケーラーや、手用の専用器具を用いて、この黒い塊を1本1本丁寧に取り除いていきます。除去した後の歯の表面は驚くほど滑らかになり、歯ぐきの腫れも引いていくため、見た目の黒ずみも劇的に改善されます。費用面でも、保険診療の範囲内で行われるため、1回の受診で数千円程度、数回に分けた全体的なクリーニングでも1万円前後で収まることが一般的です。12万円もするような審美治療に頼らなくても、適切な歯周病治療を受けるだけで、お口の清潔感は見違えるようになります。予防のためには、3ヶ月に1回の定期検診で歯周ポケット内の清掃を行うことが最も効果的です。血液成分を歯石に取り込ませない、つまり歯ぐきから出血させない健康な状態を維持することが、黒い歯石を作らないための唯一の道です。日頃からフロスや歯間ブラシを使用して歯ぐきの炎症を防ぎ、鏡を見るたびに「黒いものがないかな」と確認する習慣を持つことが、結果として一生涯、健康な白い歯とピンク色の歯ぐきを維持することに繋がります。